四五歳のときに、ひさしぶりに行った血液検査の結果だ。血液の中に「何に対するlgE抗体がどれだけ含まれているか」を示す数値が並んでいる。
たとえば、「スギ花粉一七・九八U」というのはスギ花粉に反応してアレルギーを起こす抗体の量のこと。すでにアレルギーの症状が出ている場合、この数字が大きいほど症状も強いと考えていい。ほかにも、ねこやヒノキ花粉、食物ではえび、かになど、いろんなものにアレルギー抗体をもっていることがわかる。
ぼくが自分の食物アレルギーに気がついたのは小学生のころで、あさりやしじみのみそ汁を飲むと、のどがかゆくなった。次に貝を食べたのは大学時代で、あさりの酒蒸しは食べることができた。たこやいかも食べられなかったが、今ではたこ焼きぐらいなら平気。いか刺を食べるとのどがイガイガする不快感がある。
ただし、これがぽくがもっているアレルギーのすべてとは限らない。
この検査はリトマス試験紙を浸して検体をひとつずつ調べるみたいなものだ。スギ花粉を人れたら反応があった。ダニも反応があった。でも、卵白はほとんど何も起こらない。こんなふうに、疑わしい物質をリストアップして、その物質に対する抗体の有無をひとつひとつ調べるという、あまり効率的でない検査なのだ。それに保険の関係上、一度に検査できるのはせいぜい一五項目くらいと決まっている。
さて、ぼくのデータで第一に注目すべきはダニのIgE値だ。これはけっこう高い。アトピーやぜんそくを起こしても不思議ではない数値だ。ぜんそく患者の九割近くはダニのIgEをもっている。ところが、ぼくはぜんそく発作は一度もないし、アトピーも出たことがない。
つまりぼくは、 「IgE値が高いからといって、症状が出るとは限らない」
という見本みたいな人間なのである。
アトピーが出ないのは、皮膚がじょうぶだから? たしかに、ぼくは日焼けしても皮膚が赤くなったりはれたりしない。かゆみに鈍感でひっかかないから? これもそんな気はする。性格的に神経質なところは全然ないからだ。
それと、食物アレルギーが軽い場合、アレルギーに気づかずに食べていることが多いので、日常的にかゆみが持続してアトピーの原因になることがある。
ところがぼくは、えびもいかもかにもアレルギーが強すぎて食べられない。のどがかゆくなつたり吐き気がしたりして、飲み込めないのだ。それもアトピーが出なかった理由のひとつかもしれない。
では、ぜんそくにならないのはホコリの少ない環境にいるから? 今の仕事場はフローリングの床で空気清浄機付き。でも、学生時代は六年間ひとり暮らしの下宿生活で、掃除なんてめったにしなかったし……。うん、確かなことは何もわからない。
ただ、少なくとも次のことは言える。ぼくのようにIgE抗体があってもアレルギーの症状が出ない人聞かいるということは、少なくとも、「アレルギーは治らない」という論理は成り立だない。「アレルギーになる(感作される)」とは、体の中に「ダニや花粉など、ある特定の物質に対する免疫抗体ができた」ことを意味する。でも、IgE抗体の持ち主に必ず症状が出るわけではないからだ。
アトピーやぜんそくの人の中には、検査をしてIgE値が高いと「こんなに高いのでは、いくら努力しても治らないんだろう」と落ち込む人がいるが、おかしなことだ。IgE値が高いから病気になるわけではない。
IgE値だけ見て一喜一憂するより、IgE値が高くてもアレルギーを出さない方法を探すべきだと思う。