しつこいようだが、IgE値だけでアレルギーは診断できない。検査というのはその数値を見て、どう判断するかが大事なのである。
きわめつきの例があった。生後九ヵ月の赤ちゃんの話だ。ある夜のこと、八時ごろにバナナを一切れ食べさせてから母乳を飲ませた。一一時半ごろになって、全身にじんましんが出ているのを発見。食べたものを吐いて、ゼイゼイして苦しがりだした。アナフィラキシーショックである。一刻を争う事態で、救急車で大きな病院にかつぎこまれた。
翌日、相談に来たお母さんと議論になった。
「私はその日夕食にえびを食べたんです。だから、病院の先生はえびが原因だろうと。バナナではショックは起こさないだろう、って」
そこでぽくは、こう言った。
「そりゃバナナだよ、バナナが原因でしょう」
お母さんが食べたえびは消化されるが、一部のたんぱくは未消化のまま血液に入り、母乳にも出るかもしれない。しかし、それはごく微量である。ショックを起こすとしたら、直接食べたバナナの疑いが濃厚である。
血液検査をすると、バナナの特異IgE値が二O・五四Uと出た。えびにもアレルギーがあった。でもIgE値はI・0U台で、このくらいのアレルギーなら母乳に出る量では症状は出ないと読める。果物ではキウイ、メロンがアナフィラキシーショックを起こすことで有名だが、バナナによるショックも珍しくはない。
ここで、「えっ、アレルギーってたんぱくで起こるんじゃなかったの?」と思ったあなたは、かなりのアレルギー通である。そのとおりで、IgE抗体はたんぱくの分子にしか結合しない。でも、どんな果物にも必ずたんぱくは含まれているので、アレルギーを起こす可能性があるのだ。
さて、この検査はぽくの推理が正しいこと至畏付けたわけだが、もし、えびとバナナのIgE値が両方とも高かったらどうだろう。その場合は、食べたえびが母乳に出るタイミングと赤ちゃんがバナナを食べるタイミングがちょうど重なってショックになった、と見る。
あのとき、もしお母さんが最初の病院の診断どおりに「原因はえびなのね」と納得してしまって、バナナの検査をしなかったとしたら、それこそ危険である。いつ再びアナフィラキシーショックを起こすかわからないのだから。
アレルギーに対処するには、こういう小さな事実をひとつひとつ、ていねいに見ていくことが大切だ。アレルギーという現象は、バイオアッセイ(生物検定)、つまり言葉は悪いが人体実験をしてるみたいなもの。症状が出たら、
「えっ、今回のこれはなんで出だのかな」
と、分析するチャッスだと思えばいい。そこで医者と患者が話し合いながら経験と推理を積み重ねていけば、「アレルギー? あるけど全然だいじょうぶ」という境地に、誰でも達することができるだろう。