毛か?唾液か?アレルギーでペットの運命の分かれ目

ある日、ハムスターに指をかまれた子どもが来院しか。ハムスターはペットとして今やたいへんなブームになっていて、大人から子どもまで広く人気がある。ハムスターのあの無表情さが、じっと見ているとかわいくてたまらなくなるとか。しかし、ペットにはアレルギーがつきものである。

この子の症状は、衝撃的なものだった。かまれたところからワーツとじんましんが広がって、次にゼイゼイしはじめて呼吸困難におちいったのである。一分間もかまれ続けたというから、ハムスターアレルギーの人にとっては毒を注射されたも同然だ。一目見てすぐに、この子はアレルギーなんだなとわかった。

ショック症状の治療を終えると、この子のお母さんにぼくはこう言った。

「そのハムスター、当然、隣の家のねこにプレゼントしたんだろうね?」

もちろんタチの悪い冗談だ。でも、人間にかみついて、しかも重いアレルギーを起こすペットは、だれかに貰ってもらうとかして処分するしかない。

ところが血液検査をしてみると、この子は「ハムスターの毛」にはアレルギーはなかった。それならば、原因は「ハムスターの唾液」だろう。しかし、ハムスターの唾液の検査キットは市販されていないから、直接、ぼくが自分で唾液を採取するしかない。そこで、次回の診察のときに「犯人」を連れてきてもらうことにした。

そして、その当日。診察室に入ってきた「犯人」を見たとき、ほんとにびっくりした。えらくかわいいのだ。聞くと、ジャンガリアンとスノーホワイトという二つの品種を交配したのだという。

「へえ、こんなかわいいのがかんだりするものなの?」

こう言うと、お母さんが説明してくれた。

「ほかのオスを触って、そのにおいがついた手で触ったから、攻撃されると思ってかんだのです。今度のことは私たちに責任があるので、この子(ハムスター)は悪くないんです」

なるほど。ぼくなんかより、お母さんの言うことのほうがずっと高尚である。たしかに、毛のアレルギーがなく、唾液のアレルギーだけだったら、ハムスターのせいではない。これがねこアレルギーだったら、すぐにねこを飼うのをやめないといけない。ねこは体中を自分でなめまわすから、毛にもいっぱい唾液がついていて、ねこをなでただけでもじんましんが出たりぜんそく発作を起こしたりするためだ。

でも、ハムスターは自分の体をなめたりしない。だからハムスターに触っても問題はない。ただ、ハムスターという動物の「性質」をよく理解して、かみつかれないように飼えばよい。詳しく検査をすれば、かわいいペットを飼い続けることもできるのだ。同じハムスターアレルギーでも、唾液なのか毛なのかでペットの運命は大きく分かれる。

それでも、今回の事故の原因が唾液だったという証拠は必要だと考えて、ぼくはこのハムスターの口の中にそっと綿棒をこすりつけて唾液を採取した。あくまでやさしく、「ハムちゃん」をおどかさないようにやったことはいうまでもない。その唾液をろ紙にしみ込ませ、患者さんの血清とともに専門機関に送って、患者さんにアレルギーがあるかないかを測定してもらったのだ。

ただし、その血清がハムスター唾液に対するlgE抗体が陽性だと判定するためには、比較するための陰性の検体が必要になる。それにはぽくと妻の血清を使うことにした。妻の血清まで用意したのは、高校生の時分に迷路でねずみを走らせたりしてさんざんねずみを触っていたから、ぼくも感作されているかもしれない、と心配だったからである。結果は、ぽくも妻も陰性で、患者さんだけが陽性だった。

なお、ペットアレルギーで多いのは、ねこ、うさぎ、ハムスターである。これらの動物は、人間との接触が濃厚なせいかもしれない。ペットを触ったあとは、手を石けんでよく洗うこと。室内をよく掃除すること。当たり前のことだが、注意してほしい。 

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