ところで、アレルギー反応を引き起こすカギになる「lgE抗体」が発見されたのは、一九六六年のこと。血液中のlgE抗体の検査が保険診療で認められて一般化したのは、一九七九年以降である。しかし、ある検査が発明されると、それに関係した病気が増える傾向がある。そのことに気を取られて、まわりが見えなくなるからである。
ぽくも、長年アレルギーの患者さんばかり見ているから、「咳が止まらない」と聞けばぜんそく、「鼻水が出る」と聞けば花粉症をすぐ頭に浮かべる傾向があって、気をつけなければいけないといつも思う。
先日も「ハナが止まらない」といって、五歳の男の子が来院した。ニカ月も前から鼻をグズグズさせていて、別の医師にかかっていたがちっともよくならないというので、ぼくのところに来たのである。飲んでいた薬の名前を確かめると、アレルギー性鼻炎の薬だった。
最初、検査はせずに薬だけ出されたのだが、「何のアレルギーなんですか?」と食い下がったらアレルギー検査をしてくれたそうで、検査結果を見せてくれた。
見ると、アレルギーが出ているのはスギ花粉だけで、ハウスダスト(ダユ)や動物の毛などにはアレルギーはなかった。その結果、「スギ花粉症」と診断されたという。
「えっ、そんなバカな」 思わず声に出してしまった。
これは11月の話なのである。五歳児のスギ花粉症はいまや珍しくないが、この時期にスギ花粉が飛んでいるわけがない。いくら検査が陽性だからといってそれはおかしい。お母さんが医者を替えようと決心したのも無理はない。
結局、ぼくの診断は「副鼻腔炎」だった。これが慢性化したのが蓄膿症だといえば、おなじみの病気だろう。細菌の感染症だから、抗生物質を処方して四~五日飲んだら、この子の鼻水は止まった。それにしても、どうして11月に花粉症なのか?しかしぼくはこの医師を笑えない。いう診断ミスはよく起こるのだ。この10年ほど、たしかにアレルギーの患者さんは増えた。だからといって、なんでもかんでもアレルギーのせいにしてはいけない。ましてや、検査データだけで診断するのは過ちのもとである。