良い治療の悪い治療


ステロイドは「緊急避難」の薬

ところで、美肌水を考案した前述の開業医は、アトピーの湿疹がジクジクしているときは、まずステロイド軟膏を最初の日だけ二回塗り、皮膚の状態をよくしてから美肌水を塗るように指導している。まず、炎症やかゆみを治し、きれいな状態を保つために美肌水を塗るということなのだ。これはオーソドックスで理にかなった治療である。

逆に言うと、ステロイドを塗らずに化粧水だけで治そうとするのは無謀ですよ、と彼は言っていることになる。

当たり前のことだが、ステロイドはアトピー性皮膚炎を根本的に治す薬ではない。ステロイドは炎症を抑える作用がある。アトピーの湿疹が赤くなったりブツブツに盛り上がっているのは、皮膚の細胞の中から炎症を起こす物質(ヒスタミンなど)がしみ出ているからなので、ステロイドを塗るとスッと赤みがひく。

皮膚というのは、奥のほうから新しい細胞が次々に出てきて表面の細胞を押し上げ、古くなった細胞ははがれ落ちるしくみになっている。だから、ステロイドを塗って、あとはそのままそっとしておけば、きれいな皮膚に生まれ変わるわけである。すり傷がカサブタになって、一週間で治るのと同じことだ。つまりステロイドを使う目的は、炎症による悪影響を取り除いて、皮膚を回復プロセスにのせることなのだ。「湿疹がある弱い皮膚→マイルドな治療→皮膚のバリアが回復しない→ちょっとした刺激で悪化」と、だらだらと悪い状態が続きがちなアトピーの悪循環を、バッサリ断ち切る「緊急避難」の薬なのである。


「美肌水」がアトピーに効果がある理由

一時期、健康雑誌などで大ブレイクした「美肌水」は、じつに医者の首を締めるものだと思う。実際、あれでほんとうにアトピーがよくなるらしいのである。

ぼくがこの民間療法を知ったのは、一昨年の春のことだ。遠くへ引っ越してからもぼくのところへ通ってきている三歳と五歳の男の子のお母さんが、「美肌水を塗ってみたら、よくなりました」と教えてくれた。

この兄弟は、ステロイドを使って症状をコントロールしていた患者さんである。

「へえ、どこで知ったの?」

インターネットだそうである。

さっそく、調べてみた。「美肌水」は今井龍弥さんという名古屋の開業医が提唱したもので、尿素とグリセリンと水道水とを混ぜてつくる自家製の化粧水のこと。ぽくは最初、「また、タチの悪い新手のアトピービジネスが出たか」と思ったのだが、よく聞いてみるとそうでもなさそうだ。アトピービジネスとは、民間療法に名を借りてアトピー性皮膚炎患者をターゲットに商岫などを収売し、法列の利益を得ようとIるものをいう。だが、この「i肌水」ではだれも大儲けをしてはいないのだ。